基本情報
【書籍情報】
書名 | ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか |
原題 | Zero to One: Notes on Startups, or How to Build the Future |
著者 | ピーター・ティール(Peter Thiel) |
訳 | 関 美和 |
出版社 | NHK出版 |
発売日 | 2014年9月27日 |
価格 | 1,760円(税込) |
頁数 | 253ページ |
【目次】
日本語版序文 瀧本哲史
はじめに
1 僕たちは未来を創ることができるか
2 一九九九年のお祭り騒ぎ
3 幸福な企業はみなそれぞれに違う
4 イデオロギーとしての競争
5 終盤を制する―ラストムーバー・アドバンテージ
6 人生は宝クジじゃない
7 カネの流れを追え
8 隠れた真実
9 ティールの法則
10 マフィアの力学
11 それを作れば、みんなやってくる?
12 人間と機械
13 エネルギー2.0
14 創業者のパラドックス
終わりに―停滞かシンギュラリティか
おすすめのポイント
【おすすめ度】
★★☆☆☆(2/5)
1.競争はマイナスでしかない
2.営業はどんなジャンルでも重要
1.競争を100%回避することはできない
2.話の規模が大きすぎる
3.ビジネス書というよりは思想書のような感じ

感想
良かった点
1.競争はマイナスでしかない
帯に「「競争」じゃない「独占」を目指せ」とあるようにピーターは本書の中で繰り返し独占を強調しています。
独占を目指すというよりも競争がいかに利益を上げるうえで非合理か、ということの説明に納得がいきました。
つまり競争というのは競争者同士の利益の削り合いであるため、競争することに何のメリットもないということです。
サービス内容が拮抗してしまうと、価格競争などが原因で利益が減少せざるを得ないということです。
自由競争というのは資本主義の特徴かと思いきや、実は反資本主義的なのだと。
資本主義と競争は対極にある。資本主義は資本の蓄積を前提に成り立つのに、完全競争下ではすべての収益が消滅する。
45ページ
独占を目指すのは競争を発生させないためということです。
単に競合の少ないブルーオーシャンを探す、ということとは考えの深さが違いました。
例えば外食産業などの競合ひしめく業界の熾烈な価格争いなどを考えると納得のいく話です。
競争のマイナス面の主張、これが本書の肝でしょう。
2.営業はどんなジャンルでも重要
本書ではさまざまな分野についての言及があるのですが、競争の否定とともに印象に残ったのが営業の重要性の主張です。
ピーターは「商品がいいだけでは物は売れず営業が重要である」と主張します。
私も最近読んだ本で、営業やマーケーティングの重要性を痛感していましたから、本書ではさらに背中を押された感じがしました。


IT業界で起業したピーターでさえ営業の重要性を力説するわけです。
どんな商売をやるにしても自分のビジネスを持つなら「物を売る能力」は最重要と考えて間違いないでしょう。
気になった点
1.競争を100%回避することはできない
ピーターはとにかく競争を否定しています。
ビジネスの世界ではよく戦略書が読まれています。
戦争を素材にしたものも多い。
例えば、『孫子』であったりカール・フォン・クラウゼヴィッツの『戦争論』などです。
イーロン・マスクは『孫子』とクラウゼヴィッツの『戦争論』を愛読していますし、マーケターの森岡毅さんは『戦争論』を絶賛しています。
ところが、ピーターはこれらの名著に対しても否定的なんですよ。
大学教授は学問の世界の熾烈な競争を軽く扱うが、ビジネスマンはビジネスを戦争に例えるのが好きでたまらないようだ。MBAの学生はクラウゼヴィッツや孫子の本をいつも抱えている。
61ページ
その理由は確かに説得的です。
戦争に似ているのは、ビジネスではなく競争の方だ。競争は必要だと言われ、勇敢なことだとされるけど、結局は破壊を招く。
61ページ
ビジネスと競争を分ける考え方には感銘を受けました。
ビジネスというのはサービスの提供の話であり、競争というのは競合との利益の削り合いを意味すると考えていいでしょう。
そう考えると、確かに競争は本来ビジネスの目的そのものではありません。
競合との衝突が発生してしまうからこそやむを得ずにするのが競争なわけです。
しかし、実際問題として競争を100%避けることができるのかといえばまず無理です。
ピーター自身もそのことは認めてるんですよ。
時には闘わなければならないこともある。そんな時には、闘って勝たなければならない。中間はない。
68ページ
現実的にはいかに競争をゼロにするのではなく、いかに減らすかを考えなければならないでしょう。
また、仮に競争になってしまった場合の対応も考えなくてはなりません。
こういった競争に対する現実的な対応についてはあまり語られてはいません。
勝てないなら合併しろ(67ページ)、やるなら素早く決着をつけろ(68ページ)ということは書かれていますどね。
競争をビジネスの本質から切り離して考えるというのは大事だと思います。
しかし、本書で主張される競争の回避方法が難しすぎるという印象です。
合併や素早く決着をつける、というのもそうですが、本書で主張される一番の競争回避の方法は本書のメインテーマである「独占」です。
それが次項の話になります。
2.話の規模が大きすぎる
本書で紹介されている「独占」の例が大きすぎるんですよ。
・イーロン・マスクのテスラ
・スティーブ・ジョブズのアップル
そのほか独占以外の例でも「フェルマーの最終定理」など。
世界トップクラスの頭脳の話をされても、大半の読者には共感できないでしょう。
ひたすらにこのような偉大な事例が続くので自分事として考えることができません。
一般人が参考にできるようなものではない、というのが正直な感想です。
3.ビジネス書というよりは思想書のような感じ
本書はビジネス書というよりピーター・ティール個人の思想を記した本という方が正しいでしょう。
語られる内容も起業のみならず、経営や投資など多岐に渡りますし、政治的な思想にも言及があります。
ビジネスの参考にするというよりは、ピーター・ティール個人に興味のある人向けの本だと思います。
まとめ
競争の不毛さ、ビジネスと競争を分ける視点、営業の重要性など、学ぶことがあったのは事実です。
とはいえ、一読すれば十分かな、という程度の内容に感じたのも事実です。
それぞれの視点、例えば営業であれば営業の技術について書かれた専門的な本を読む必要があるでしょう。
かなり人を選ぶ内容の本なのではないかと思いました。
