基本情報
【書籍情報】
書名 | 10倍速く書ける 超スピード文章術 |
著者 | 上阪 徹 |
出版社 | ダイヤモンド社 |
発売日 | 2017年8月 |
価格 | 1,650円(税込) |
【目次】
はじめに 速く書ければ、仕事は速くなる
序章 なぜ文章を書くのに時間がかかってしまうのか?
第1章 10倍速く書ける「素材文章術」
第2章 正しい素材を集める2つのルール
第3章 素材をひたすら集める
第4章 素材を読みやすい順番に組み立てる
第5章 一気に書き上げる
第6章 読みやすく整える
実践編 ケース別・速筆術
おわりに
おすすめのポイント
書く前の段階で勝負は終わっている
【おすすめ度】
★★★★★(5/5)
1.文章を書く前の素材集めについてこれほど説得的に書かれた本はない
2.文章を書く際の有用なテクニックも豊富に紹介されている
3.文章を書いた後の対応まで書いてある
4.すべてに具体例や実例があるので説得力がある
肝心の素材そのものについての説明が曖昧な気がする

こんな人におすすめ!
・仕事で文章を書くことが多いすべての人
・特に、ブログやnoteなどの文筆活動を行っている人は必読


感想
『10倍速く書ける 超スピード文章術』の良いところ
1.文章を書く前の素材集めについてこれほど説得的に書かれた本はない
本書の最大の特徴は、文章を速く書くコツは文章を書く前の素材集めにある、としているところです。
素材とは文章のネタのことであり、具体的には以下の3つになります。
・独自の事実
・エピソード
・数字
文章を書く作業とは、これら3つの素材の調理方法である、と考えるわけです。
そして、著者である上坂さんは「素材が良質であれば調理の必要はない」としています。
つまり、取材で集めた素材を並べ替えるなりして形成すればいいのであって、書く内容を自分の頭から無理に捻り出す必要はないということです。。
逆に言えば、なぜ多くの人が速く文章を書けないのかというと、書くべき内容(=素材)が十分に集まっていないにもかかわらず、無理に文章を書こうとするからということです。
では、良質な素材を集めるにはどうすればいいのかというと、次の2つを素材集めの段階から明確にしておく必要があるとのことです。
素材集めをする前に明確にしておかなければならないこと2点
・文章を書く真の目的
・どのような人が読むのか、具体的な読者の設定
特に私が参考になったのは具体的な読者の設定です。
これはブログの世界だとペルソナと言われるものです。
「誰に向けて書く文章なのかを明確にするためにペルソナを設定しろ」とはWebライティングの本などではよく言われていることです。
けど、ペルソナの設定なんて言われてもよく分からないから今まで無視していたんですよ。
だって、想像したところで他人のことなんてよく分からないじゃないですか。
その考え方は今でも変わっていません。
しかし、ペルソナを定める意味は書く文章内容が変化することを意味しません。
- ペルソナの設定→書く文章が変わる
じゃあ、ペルソナを定めるとどうなるのかというと、文章内容ではなく集める素材が変わるのです。
結果として文章の内容が変わるというわけです。
- ペルソナの設定→集める素材が変わる→結果として書く文章が変わる
これは私のような書評のレビュー記事を書いている人間にとっては大きな発見でした。
つまり、ペルソナは自分自身を言語化すれば十分ということです。
どういうことか説明します。
レビュー記事とは自分が実際にその商品を使用してみた感想になります。
商品を使ってみた自分自身を言語化すればそのままペルソナが完成するわけです。
架空の「妻子持ちの30代男性で大企業勤務の年収800万の正社員」みたいな、実態のよく分からない存在をでっち上げる必要なんてないんですよ。
例えば、私は今地政学に興味を持っており、『あの国の本当の思惑を見抜く 地政学』という本を読んでいます。
もちろんこの本についてもレビュー記事を書きます。
自分自身を言語化することによって読書の仕方が変わります。
【ペルソナとして自分自身を言語化する】
①なぜ地政学に興味を持ったのか?
→昨今の不穏化する国際情勢がきっかけであり、日本は地理的に危険な場所に存在しているから日本の地政学的状況を知りたいと思った
②地政学を学んで何がしたいのか?
→日本の状況を知ることに加えて、投資をする前提として今の地政学的状況が今後の世界経済に与える影響を知りたい
③地政学の前提となる知識(地理や世界史、宗教学など)を持っているか?
→全く持っていない
④著者はYouTuberであるが、著者の動画を見たことがあるか?
→全くない
このように本を読む前に自分自身の状態を言語化することで読書の仕方が変わってきます。
①より
日本の現在の地政学的な危険度を知ることができるか?
②より
地政学的な観点から投資を考えるヒントが得られるか?
③より
地政学の前提知識が無くても読みこなせるか?
④より
著者の動画を見ていた方がいいか、それとも本だけで理解できるか?
書籍レビューをしている私からすると、読書そのものが素材収集となります。
ペルソナを設定、つまり読書時点での自分を言語化することで、読書をする際に拾わなければならない情報が明確になるのです。
ペルソナ設定の話になるとやたらと「40代の専業主婦で子供が手のかからなくなった」みたいな例がサンプルに上がっていたりします。
お決まりのように年齢の話が出てきますが、そんなのよく分からないんですよ。
地政学にしたって、何歳くらいの人が興味を持つかなんて分かりません。
しかし、この『あの国の本当の思惑を見抜く 地政学』という本に興味を持った自分自身のことなら分かります。
そしてそんな自分自身を言語化しておくだけで読書の精度は格段に上がるということです。
自分自身をペルソナとして言語化するだけで、商品の消費活動を素材収取活動にすることができると分かったことが最大の収穫でした。
これまでも一応ノートに読書目的を書いてから読み始めていたんですけどね。
ペルソナ設定、つまり自分自身の状態を言語化した方がはるかに読書目的が鮮明になります。
2.文章を書く際の有用なテクニックも豊富に紹介されている
本書のメインは素材集めについてであり、ページ数も半分以上が割かれています
しかし、実際に文章を書く時の技術も、素材との関係から有益なものが多数紹介されています。
私が一番印象に残ったのが、形容詞をできるだけ使うな、というものです。
形容詞を使うということは素材に着目できていないからです。
素材に着目できていない結果、自分の感想を無理矢理捻り出すことになってまうのです。
本書の例を引用します。
たとえば「すごく寒い」という状況を、この形容表現を使わずに伝えるためにはどうすればいいか。
185ページ
①「温度計は零下5度を指していた」
②「手袋をしても、手がかじかむくらいだ」
③「窓の外を見ると、軒下から伸びるツララが20センチほどの長さに延びていた」
①~③は本書でいう素材の中の「独自の事実」にあたります。
「すごく寒い」という状況を形容詞を使わずに素材で表現しているわけです。
形容詞を使うな、というのは私としても耳に痛い言葉です。
というのも、実際にブログ記事を書いていて、特に書くことがなくなってくると、
・有益だった
・重要な知識
・必読です
という感想のような形容表現が増えてくることは自覚していたんですよ。
形容表現ではなく素材を使って伝える、というのは素材集めから文章を書く流れが上手く出来ていることを確認することにもつながるわけです。
すでにこの記事を書く時点でも意識しています。
本書では他にも実践的な作文技術が多数紹介されています。
素材集めだけの本ではありません。
3.文章を書いた後の対応まで書いてある
文章を書いた後の対応というのは、一度書き上げた文章を提出するまでにするべきことになります。
当たり前ですが、書いた文章をそのまま提出・公開するわけにはいきません。
修正や文章を整えることが必要になります。
この修正や文章の整形についても14項目ほどで技術を紹介してくれています。
素材集めや作文技術だけではなく、提出・公開までの道順を最後まで面倒見てくれているということです。
ちなみに、私は書いたブログは確認もせずに速攻で公開しています。
まあ、ブログはいつでも修正できるんで・・・。
4.すべてに具体例や実例があるので説得力がある
ほとんどすべての技術に具体例や実例があるというのも本書の強みです。
個別の技術には、前述した形容詞の話のように分かりやすい具体例を載せていくれています。
800字以上の長文については過去に著者自身が書いた文章を掲載して具体的に説明してくれています。
※5000字以上の長い文章についてはネットで無料で見れらるものを紹介する形になっています。
抽象的な技術論に留まっていないのが本書の長所の一つといえるでしょう。
『10倍速く書ける 超スピード文章術』の注意点
まず前提として、本書には技術レベルの大きな注意点はありません。
具体例が分かりやすく、ほぼ異論のない内容になっています。
それでも一点だけ気になったという程度です。
肝心の素材そのものについての説明が曖昧な気がする
本書の素材というのは前述した通り次の3つです。
・独自の事実
・エピソード
・数字
数字は分かるから問題ありません。
個人的には独自の事実とエピソードの違いがよく分からなかった、というのがあります。
定義も示されていません。
事実は事実、エピソードはエピソードと言われてしまえばそれまでかもしれませんが、素材集めを重要視している以上、素材そのものについての正確な定義づけが欲しいと思いました。
たとえば、本書で紹介されているドトールの話です。
「ところが工場にやってきて、胃をおかしくしたことなんて一度もないわけです。一日二リットル、三リットルのコーヒーを飲むのにです。酸化していない、新鮮なコーヒーだけを飲んでいるからです」
61ページ
著者がドトールの責任者に取材をして得たコメントを引用したものになります。
多分エピソードに分類されるんでしょうが、独自の事実とも言えそうです。
・挿話として考えればエピソード
・新鮮なコーヒーを飲んでいたので胃をおかしくしなかったという事実
エピソードと独自の事実が同じようなものであれば分ける必要はなかったでしょう。
明確に違うのであれば説明が欲しいところです。
まとめ
実際に文章を書く行為ではなく、その前段階の素材集めから勝負は始まっている、ということが分かるのは本書の特長になります。
具体的な作文技術についても素材の活かし方の観点から書かれているので、本書全体を通して一貫した技術が習得できるようになっているわけです。
文章の書き方の本は10冊以上読みましたが、具体性が高く、実践できるように書かれていたのは本書が一番だという印象です。
普段仕事で文章を書くことが多い人は読んで損はないでしょう。
ブログやnoteなどの執筆活動を行っている人は必読ではないでしょうか。
内容が良すぎてあまり人に教えたくない本だというのが正直なところです。

