【感想】ストーリーとしての競争戦略(楠木 建)<44冊目>

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基本情報

【書籍情報】

書名ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件
著者楠木 建
出版社東洋経済新報社
発売日2010年4月23日
価格3,300円(税込)
頁数500ページ

【目次】

まえがき
第1章 戦略は「ストーリー」
第2章 競争戦略の基本論理
第3章 静止画から動画へ
第4章 始まりはコンセプト
第5章 「キラーパス」を組み込む
第6章 戦略ストーリーを読解する
第7章 戦略ストーリーの「骨法10カ条」
注記
索引

おすすめのポイント

【おすすめ度】
★★★(5/5)

良かった点

1.競争を回避し、独占を築くための本質的な考え方が学べる
2.人間の本性に基づいたコンセプトからストーリーを組み立てる

3.心理学や行動経済学を学ぶモチベーションが高まる

気になった点

1.500ページのうち前半が冗長で読むのに時間がかかる(形式面)
2.コンセプト重視の戦略が裏目に出る可能性はある(実質面)

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感想

良かった点

1.競争を回避し、独占を築くための本質的な考え方が学べる

本書を読んで一番良かったのは、競争を回避する本質的な考え方が学べたことです。

まず、現代ビジネスにおいては競争は悪です。
競争すると競合との利益の削り合いになるため、基本的にはメリットはないわけです。

競争の不毛さは、以前にレビューした『ゼロ・トゥ・ワン』(ピーター・ティール)や『金儲けのレシピ』(事業家bot)で説明されている通り。

ではどうやって競争を回避し独占を目指すのかとなりますが、本書で紹介されているのは人間の本性に根差した本質的な手法になります。

2.人間の本性に基づいたコンセプトからストーリーを組み立てる

人間の本性とは、時代が変化しても変わることのない人間の根源的な欲望と言っていいでしょう。

より細かく言えば、以下の引用の通りです。

人間の本性とは、要するに、人はなぜ喜び、楽しみ、面白がり、嫌がり、悲しみ、怒るのか、何を欲し、何を避け、何を必要とし、何を必要としないのか、ということです。

279ページ

人の欲望を充足した対価として金銭を受け取るのが商売というものです。
そう考えると、人間の本性を考慮することは当たり前のように思えます。

本書が秀逸なのは、「人間の本性に基づいたコンセプトを追求すると、必然的に競争が回避され独占が生じる」というプロセスを分かりやすく解説していることなんです。

例えば本書に繰り返し登場するスターバックスです。

スターバックスのコンセプトは、「第三の場所」を提供することです。

スターバックスのコンセプトは、コーヒーではなく「第三の場所(third place)」の提供にある!

「第三の場所」とは家庭でも職場でもないくつろいだ時間を過ごせる場所、ということです。
ストレス社会において気持ちの休まる落ち着いた場所の提供が求められているとCEOのハワード・シュルツ氏は考えたわけです。

落ち着いた空間を提供しようと思えば、アルコールは出さない方がいいことになります。
「効率的な食事の場」と捉えられないようにフードメニューにも力を入れません。

そして、コンセプトを維持するためにフランチャイズ方式ではなく直営方式を採用しました。

・アルコールは出さない、フードメニューに力を入れない
・フランチャイズ方式ではなく直営方式を採用

こういった各戦略は飲食店経営を考えた場合、効率の観点からは非合理的になります。

アルコールやフードメニューを望む声はお客さんから上がっているし、フランチャイズ方式にすれば経費も安くすみます。

しかし、スターバックスのコンセプトは「第三の場所」の提供にありますから、部分的に不合理であってもコンセプト全体からすれば合理的なのです。

この「部分的には不合理だが全体の中では合理的」な戦略こそが、競争を回避し独占を生じさせるキーポイントになるわけです。

なぜなら不合理であるがゆえに模倣をするモチベーションがないからです。

しかも、部分的に模倣したとしても意味がありません。
アルコールを出さなくすればその分の売上が落ちるだけです。

パクるのであれば『「第三の場所」の提供』というコンセプトごとパクる必要があるわけですが、それをやろうと思うと全社で経営方針の変更を迫られてしまう。

競合他社は真似したくても真似することができず、結果として競争を回避した上に市場の独占にもつながるということなのです。

人間の本性から突き詰めたコンセプトで競争回避と独占状況が生じる、という人間味のある結論が本書の肝になります。

3.心理学や行動経済学を学ぶモチベーションが高まる

よくWebマーケティングの世界では心理学の名著『影響力の武器』を読むことが推奨されています。

本書『ストーリーとしての競争戦略』を読めば分かる通り、人間理解こそ戦略策定の基本になるわけです。
『影響力の武器』のような人間の本性を解説した本がおすすめされるのは極めて妥当ということになります。

私も『影響力の武器』は持っているし読んだこともあるのですがあまり重要視していませんでした。

『ストーリーとしての競争戦略』を読んだ後では『影響力の武器』のような人間の本質について理解できる本を読むモチベーションが大きく上がりました。

気になった点

1.500ページのうち前半が冗長で読むのに時間がかかる(形式面)

これが致命的な欠点です。

ただでさえ500ページと長いのに、前半が分かりにくくて冗長です。

私も一回読むのをやめてしまったことがあります。

240ページ以降のブックオフの事例が出てくるあたりから急に面白くなってきます。
前半は我慢して読み進めるしかありません。

前半で後半の下準備をしているので後半から読み始めるというのはおすすめできません。

2.コンセプト重視の戦略が裏目に出る可能性はある(実質面)

部分的な不合理を全体の合理性で解消する。
言うのは簡単ですが実践は難しいところもあるでしょう。

実際に本書で登場するガリバーという中古車販売の会社は、「買取専門」というコンセプトで一度失敗しているそうです。

スターバックスにせよ、アルコールや軽食を提供せず、コストのかかる直営方式にしてもしお客さんが「第三の場所」など求めていなければ上手くいかなかった可能性もあります。

コンセプト重視の戦略は成功を保証するというわけではありません。

まとめ

「人間の本性を理解しコンセプトを突き詰めて独自の戦略を生み出す」という考え方は数字で語られることが多いビジネスの世界では人間らしさがあります。

楠木先生によれば、「ストーリー戦略は頭を使って考えるしかない」とのことですが、この作業は楽しいものなのです。

ハマれば同業他社と違うことをやって同業他社に大きく差をつけることができるわけですからね。

自分でビジネスをやっている人からすれば、戦略を考えることに夢を与えてくれる本といえるかもしれません。

長くて読むのに少々労力はかかりますが、読む前と読んだ後ではビジネスに対する考え方が間違いなく変わります。

自分でビジネスをやりたい人にとっては必読の一冊でしょう。

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