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【読書ノート】失敗の科学(マシュー・サイド)

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目次

おすすめのポイントと基本情報


【おすすめ度】
★★(5/5)

【おすすめのポイント】
失敗に着目しながら、人が成長するための合理的な方法を心理学的根拠をもって説得的に論じている名著です。

しかも、単に事実を列挙しているという味気ない文体ではありません。
帯に「小説のように面白い!」とあるように、各エピソードは続きが気になるように時系列などを工夫して巧みに描いており、引き込まれてしまう面白さがあります

有益な知識とエンターテインメントとしての面白さ共にハイレベルな書籍は珍しいので文句なく★5つです。
著者マシュー・サイド氏の他の書籍も読みたくなってしまうでしょう。

ただし、本書の原題は「Black Box Thinking」であり、「失敗の科学」というのは正確な翻訳ではありません。
実は人は失敗から学ばないという研究結果もあるようなので、懐疑的な姿勢で読む必要はあるでしょう。
ここら辺については下で詳しく論述しています。

【おすすめしている人】※リンク先はYouTube
・メンタリストDaiGoさん
▶︎質疑応答◀︎失敗と向き合わなければ、その他大勢として生きることになる
・マコなり社長
【超要約】人生で必ず読むべき本 100選
・KAZUYAさん
何故人は失敗を認められないのか?【失敗の科学/本ラインサロン1】

書籍情報

書名:失敗の科学
著者:マシュー・サイド
訳者:有枝 春
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日:2016年12月23日
価格:2,530円(税込)

目次

第1章 失敗のマネジメント
 1 「ありえない」失敗が起きたとき、人はどう反応するか
 2 「完璧な集中」こそが事故を招く
 3 すべては「仮説」にすぎない

第2章 人はウソを隠すのではなく信じ込む
 4 その「努力」が判断を鈍らせる
 5 過去は「事後的」に編集される

第3章「 単純化の罠」から脱出せよ
 6 考えるな、間違えろ
 7 「物語」が人を欺く

第4章 難問はまず切り刻め
 8 「一発逆転」より「百発逆転」

第5章「 犯人探し」バイアスとの闘い
 9 脳に組み込まれた「非難」のプログラム
 10 「魔女狩り」症候群

第6章 究極の成果をもたらすマインドセット
 11 誰でも、いつからでも能力は伸ばすことができる

終章 失敗と人類の進化
 12 失敗は「厄災」ではない

エピローグ
謝辞

読書ノート

『失敗の科学』を読む目的

本書はノンフィクションやドキュメンタリーのような文体ではありますが、その目的は

人が効率的に成長する方法を学ぶこと

にあります。

前半は医療業界や航空業界、司法業界という大規模な組織の話が中心ではあります。
しかし、肝心の成長方法については個人を例にした話も多いため、個人の成長を助けることが本書の趣旨と言っていいでしょう。

『失敗の科学』を読んだ感想

本書『失敗の科学』から得られる最大の教訓とは

とにかく成長したければ大量に行動せよ!

ということです。

これだけだと大したことを言っている気がしないのですが、大量行動という戦略を失敗に関連させているところに本書の特徴があります。

①大量行動には失敗が必然的に付随する
②質を気にせず量をこなした方が結果的に質も高まる

ということが、本書にしか見られない独特な指摘になるでしょう。
特に、『失敗の科学』の書名通り①がメインになります。

そもそも、大量に行動すればするほど必然的に失敗も増えることになります。
つまり、失敗を恐れてしまうと大量に行動することに躊躇していしまうわけです。

そこで、本書では失敗に対する対応について、主に医療業界と航空業界という失敗に対する対照的なアプローチをとる2つの業界に着目して分析しているわけです。

②については、本書では簡単に触れられている程度ではありますが、面白い研究が紹介されています。
それは、ある陶芸クラスの生徒を2つのグループにわけ、片方は作品の質を、もう片方は作品の量を評価するとして課題を与えたというものです。

この実験の結果として、最も質の高い作品は作品の量を評価すると言われたグループから生まれた、ということでした。

質を高めたければ質にこだわらず量をこなした方がいい、という結論です。

本書を読めば失敗に対する考え方が変わり、多くの試行錯誤をしてみたくなるでしょう。

他書籍との関連による内容の信頼性

失敗の科学は有名書籍と内容が重複しています。
「失敗」という特殊な切り口であるため、新たな知見が得られるとともに思考の整理に優れた書籍といえるでしょう。

①『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』(アトゥール・ガワンデ)


本書『失敗の科学』は医療業界と航空業界を例に失敗についての分析を始めていますが、この『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』も同じように医療と航空という2つの業界に着目しています。

『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』ではチェックリストの有効性を分析しており、医療業界でも目覚ましい成果を上げていることが紹介されています。

『失敗の科学』ではアトゥール氏やチェックリストにも言及されているので『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』を読めば理解がより深まるでしょう。

②『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』(ジェームズ・クリアー)


『失敗の科学』は大量行動について奨励していますが、『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』も同じように大量の習慣を身に着けることを勧めています。

両者ともにイギリスのプロ自転車競技を一新させたデイブ・ブレイルスフォード氏の手法について言及しています。

『失敗の科学は』は失敗の観点から、『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』は習慣の観点から解説されているので、大量行動の有効性は極めて高いと言えるでしょう。

『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』は当サイトでもレビューしているので良かったら参考にしてください。

③『マインドセット「やればできる! 」の研究』(キャロル・S・ドゥエック)


目次を見てもらえば分かる通り、本書『失敗の科学』の第6章は「究極の成果をもたらすマインドセット」となっています。

ここでのマインドセットとは、キャロル・S・ドゥエック氏の名著『マインドセット』で解説されている成長型マインドセットのことです。

本書『失敗の科学』ではドゥエック氏の研究が紹介されているので『マインドセット』を読むとより双方の理解が深まるでしょう。

成長には大量行動が不可欠。
そして大量に試行すれば当然失敗も増えます。

成長に不可避的に付随する失敗を好意的に考えるためには成長型のマインドセットが欠かせないというわけです。

注意しておくと、『失敗の科学』は単に有名書籍の知識を寄せ集めたなどという単純な内容ではありません。

失敗に着目しながら、上記3つの書籍で論じられている内容が別の角度から説得的に論じられています
章ごとの流れも論理的であるため理解しやすく書かれているのです。

様々な書籍で論じられている知識が、大量行動という効果的な手法に収斂される流れは見事としか言いようがありません。
私が本書に強い感銘を受けた理由の一つです。

人は失敗からは学ばないという研究結果もあるが?

実は「人は失敗から学ぶことはない」という研究結果があるそうです。

結論を言ってしまうと、この実験結果をもって本書『失敗の科学』に書いてあることが間違いということには全くなりません。

まず、『失敗の科学』で紹介されている航空業界の事例では、失敗すなわちヒューマンエラーを分析することで同様の事故の再発を防ぐことに成功しているので失敗から学んでいるのです。

また、大量行動には失敗が不可避的に付随しますが、『失敗の科学』は失敗から学べという論調ではありません。
行動すれば失敗は避けられないのですが、その失敗とどう向き合うべきなのかが論じられているのです。

つまり、失敗を否定的に考えてしまうとそもそも行動や改善が行われないため成長もないわけです。
成長したければ失敗に対する否定的な考え方を変える必要があります。
本書『失敗の科学』は失敗についての態度を建設的なものにすることについて書かれています

失敗を分析する方法や、失敗から学ぶことについて書かれているわけではありません。

確かに、冷静に考えれば私たち個人が失敗そのものから学ぶことはほとんどありません。

動画で紹介されているローレン博士の研究では、質問の正誤のいずれのフィードバックを受けたかで学習の程度観察したところ、正のフィードバックを受けた方が誤のフィードバックを受けるよりも学習するとのことでした。

普通は、受験勉強や資格試験で問題集をやるときに間違った問題を集中的に復習するため、間違いを指摘された方が成長するようように思えます。
ローレン博士の実験結果は意外に感じるでしょう。

しかし、問題集から学ぶのは間違えた問題に再度取り組み、正答できるようになったときです。
この過程で自分のできない問題を一度間違える(失敗)ことは不可避なわけです。

問題を間違えることを恐れていては問題集に取り組むことなどできないでしょう。
仮に全ての問題に正しく解答できる問題集など取り組んでも意味がありません。
そんなことができるならとっくに試験に合格しているからです。

正答(成功)するまで続けなければ意味がない、という事実に着目すれば人は失敗から学ばないといえるかもしれませんが、やや誇張のように感じます。

私も資格試験の勉強を断続的に行っていますが、問題集を解くときに簡単に解ける問題を繰り返すなどということはするはずがありません。

間違えた問題を解けるようになるまで繰り返すことに意味があるわけです。

敢えてローレン博士の実験について好意的な意見を述べるならば、失敗はした方がいい、というより失敗は避けられないので行動した証として好意的に受け止めろ、というところでしょうか。
成功までの過程で体験する失敗は少ない方がいいという意見であれば賛同できます。

メンタリストDaiGoさんも上の動画内で本書『失敗の科学』をおすすめしているので、『失敗の科学』を否定しているわけではありません。

ちょっと認知的不協和になっちゃってますかね?

『失敗の科学』の不満点

内容もためになる上に面白い本だと思ったのでほとんど不満はありませんがいくつか指摘したいことはあります。

①医療業界に厳しい
②ジャンルは組織経営ではなく自己啓発

①医療業界に厳しい

本書はやや医療業界に厳しい感じがしますね。

上で紹介したアトゥール氏の『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』を読めば分かりますが、医療業界も医療ミスによる事故を減らすために内部から変わろうとする動きもあり、実際に改善がなされていることもあります。

『失敗の科学』だけ読んでいるとまるでミスを隠蔽することに躍起になっている業界のように感じられますがそんなことはないでしょう。

②ジャンルは組織経営ではなく自己啓発

本書は組織経営のコーナーに置かれており、経営の専門書のように考える人が多いですが内容は明らかに自己啓発書です。
医療業界と航空業界についてはあくまで事例として紹介されているだけで内部の仕組みはそこまで詳しく書かれているわけではありません。

邦訳の副題は「失敗から学習する組織、学習できない組織」となっていますが、原著は「The Surprising Truth About Success(成功についての驚くべき真実)」となっています。

有名な『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』にあやかりたかったのかもしれません。

誤解を与える売り方をしているのは間違いないでしょう。
あくまで自分を成長させるために自己啓発本として買わないと期待外れになるりかねません。

まとめ

本書を自己啓発本として考えるて読むのであれば、失敗どころか質さえ気にせずとにかく大量に行動することが成功への近道であるという事実について明確な根拠をもって解説してくれている名著だと思います。

文章も面白い上に、上で紹介したような様々なジャンルの知識の理解も深まるので読まない理由はないでしょう。

マシュー・サイド氏は本書の他にも『才能の科学(旧題は『非才』)』や『多様性の科学』『勝者の科学』などの評判のいい著書があるので読んでみたいと思うようになりました。

ちなみに、メンタリストDaiGiさんも『失敗の科学』だけではなく著者単位でおすすめしています。


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