おすすめのポイントと基本情報
【おすすめ度】
★★★★★☆(4/5)
【おすすめのポイント】
習慣と目標との関係が書かれている数少ない習慣本であるため、一読の価値がある。
また、情報の網羅性が高く、if-thenプランニングや習慣トラッカーなど、習慣構築に効果の高い手法はほとんど記載されている。
ただし、情報量が多いため延々と分厚い文庫本の小説のように文字だけ単調に続く。
一応各章ごとにまとめがあるが読みやすさは感じなかった。
さらに、目標と習慣の関係について独自性の高い情報はあるものの、この点については情報量も少なく、はっきり言いきってくれているわけでもないので読者の読解力や自分で応用する力が重要になってくる。
以上をまとめると、気付きを得られた人には良書かもしれないが、延々と単調に続く長文が苦手で読解力に自信のない人からすると悪書になりかねない本だと言える。
少なくとも習慣本の一冊目に読む本ではない。
書名:ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣
著者:ジェームズ・クリアー
訳者:牛原 眞弓
出版社:パンローリング株式会社
発売日:2019年10月12日
価格:1,650円
はじめに
基本 なぜ小さな変化が大きな違いをもたらすのか
第1の法則 はっきりさせる
第2の法則 魅力的にする
第3の法則 易しくする
第4の法則 満足できるものにする
さらなる戦略 改善するだけでなく、本物になるには
付録
読書ノート
本書を読む目的
習慣と目標の関係を明確にしたい
自己啓発書やビジネス書ではよく目標設定の重要性が言われている。
他方、習慣の重要性も同様に主張されている。
この2つをどのように考えればいいのを知りたいということだ。
特に、習慣と目標の優先順位については一番気になるところだ。
まず何らかの目標設定をした上で、習慣のことを考えるのか。
あるいは習慣を優先するのか。
それとも同時並行なのか。
人生をより良いものにしようと思うと、習慣と目標はどちらも重要なものなので、どういう方針でそれぞれに取り組めばいいかを知りたかったわけである。
本書を読んだ感想
上記の目的に対する結論については一応提示されている。
習慣本らしく結論は、
ということだ。
この点については本書の33ページから40ページに書かれている。
習慣と目標の関係についてはっきり「習慣を優先しろ」と言っている本は少ないため本書を読む上では重要なポイントだ。
その根拠として、目標偏重の問題点を以下の4点指摘している。
①勝者も敗者も目標は同じ
②目標達成は一時的な変化にすぎない
③目標は幸福を制限する
④目標は長期的な進歩と相容れない
少し強引に要約してしまうと、目標は短期的であり人間としての根本的な成長に直接つながらない、ということなのだろう。
他方、習慣を構築することは人間性自体の変化であり、その恩恵は長期に渡って続く。
確かに、ハードな部活動や受験勉強が終わってしまった瞬間やる気がなくなり努力をしなくなる、いわゆる燃え尽き症候群という現象がある。
人生のどこかでがむしゃらに一つの目標を追いかけることは重要かもしれない。
しかし、社会人になると極端な変化よりも日々の生活の中で長期的に少しずつ成長・改善がなされることの方が重要に思えるのだ。
本書では習慣を目標より重視したとしても大きな目標達成につながることも説明している。
ここが本書の一番重要なところだ。
すなわち、大きな目標の達成は小さな習慣を大量に積み上げることで実現する、ということを主張している。
この点について本書では英国自転車連盟の話を例に出している。
イギリスのプロ自転車競技は1908年以来、110年間も成績が振るわないでいた。
しかし、とある新監督を起用したところ変化が生じ、オリンピックやツール・ド・フランスで金メダルを大量に奪取できるようになったそうだ。
この新監督が行ったことというのは、彼の以下の言葉に尽きる。
「要するにこういうことです。自転車に乗ること関係するものをできるだけ細かく分けて、それぞれ1パーゼントずつ改善したら、全部合わせたときにすばらしい改善になるんです」
23ページ
実際にやったことは本当に細かく、風邪をひかないような手の洗い方の改善、なんてものもある。
こんな些細なことがオリンピックのメダルとどう関係するのかとも思えるが、このような微少な改善が大量に組み合わさると爆発的な結果を生み出すということが本書の肝心な部分だ。
通常の目標達成の技術を語る本は、まず目標を設定してそこから逆算して計画を立てることが推奨されている。
いわゆるブレイクダウンという方式だ。
その逆に下から積み上げて目標を実現する方法がボトムアップになる。
・ブレイクダウン:目標に期限を定め、そこから逆算して計画を立てる
・ボトムアップ:目標実現に有益な行動を積み重ねていく
本書は、習慣を大量に積み上げれば自然と結果はついてくるというボトムアップ方式を推奨していることになる。
これは私の経験ともかなり合致する部分がある。
つまり、まず目標を設定してそこから逆算して計画を立てるというブレイクダウン方式は以下の点で凡人にはハードルが高すぎるのだ。
結果がいつ出るかは予測不能
自分が実現したい目標がいつ実現するのかを予測するのはほぼ不可能だろう。
受験や資格試験、年に1回行われるようなスポーツの大会などならともかく、収入を上げるなどの抽象的な目標は努力と結果が正比例する関係にない。
自分の起こした会社を東証一部(今はプライム市場)に上場させたい、などというのは予測不能な目標の典型だろう。
ワタミの渡邉美樹氏やGMOの熊谷正寿氏にはできたのかもしれない。
彼らはその著書でブレイクダウン方式を絶対視しているのだが、そのやり方に再現性があるかは疑わしいのだ。
少なくとも自分はダメだった。
凡人が明確な目標を設定したところでそれがいつ実現するかは分からないし、そもそも実現するかどうかも分からない。
目標至上主義は挫折しやすい考え方に思える。
逆に、習慣を積み上げていく方式は実行が容易で継続しやすいというメリットがある。
英国自転車連盟が行った手の洗い方を変える、という程度の改善なら誰にでもできる。
挫折することは考えにくい上に、自分の置かれている状況は確実に上昇・前進していく。
長期的にみるとボトムアップ方式の方が再現性が高く、得られる利益も大きいのではないだろうか。
少なくとも何か目標を実現しようと思い立った人にとって取り組みやすい方法と言える。
以上述べてきたように、本書は目標達成について小習慣を大量に積み上げるという方法を紹介してくれている。
習慣を身に付ける方法について解説している本は多いが、それが目標の実現とどのような関係にあるのかを解説している本はほとんどない。
この1点からだけでも本書を読んで良かったと強く感じた。
本書の不満点
不満点は大きく2点だ。
①とにかく冗長な文章
②重要な気付きを得られるかは読者次第
①について、本書は文章の量がとにかく多い。
毎回結論を示さずに、ゲイリーが~、オズワルドは~、とエピソードから始まる。
このタイプの文章スタイルが好きな人などいないと思うのだが、アメリカの本はこのパターンだ本当に多い。
実用的な知識を得たい人からすると読むこと自体がかなり苦痛だろう。
②について、本書は知識の網羅性が高いため、気づきさえ得られれば極めて有益な書籍だ。
前述した通り、管理人も習慣と目標の関係については重要な気付きを得られたので読んで良かったと思っている。
ただし、全体的にあらゆる知識を並列的に書いている上に、特定の知識を強調しているわけではないので、読んで知識を血肉に出来るかは完全に読者次第だ。
この点は、「身に付けたい習慣を極限まで小さくすること」という最重要知識に徹底的にフォーカスしている『小さな習慣』(スティーヴン・ガイズ)とは全く異なる。
単純に習慣に関わる知識を網羅的に知りたいのであれば他に読みやすい本がいくらでもある。
例えば、メンタリストDaiGo氏の『超習慣術』などだ。
良書ではあるが人を選ぶ、というのが素直な感想だ。
まとめ
以上のように、管理人個人としては習慣と目標に関する重要な気付きを得られたので読んで良かった本だ。
しかし、内容の読みにくさから自信を持っておすすめできるかと言えば、ちょっと難しい。
習慣と目標の関係について知りたくなったら目を通してみればいいのではないだろうか。